4つの経営資源のひとつとして注目を集めるファシリティと、ファシリティマネジメントという新たなソリューションについて解説します。ファシリティの意味を振り返りながら、ファシリティマネジメントによって生み出される価値とはどのようなものか、またどのような場所で導入されているかを見てみましょう。
ファシリティマネジメントとは
新たに注目される経営資源―ファシリティ
ファシリティという言葉を辞書で引くと、「設備」や「施設」といった意味が出てきます。一方、今注目されている新たな経営資源としての「ファシリティ」についての適切な日本語訳はまだありません。
この場合でいうファシリティとは、企業の経営活動において資源としての価値を指します。すなわち管理・運用する建物やそれに付随する設備、またその中に保管される機器、さらに建物を使う人とそれを取り囲む環境など、施設に関する総合的な価値のことをいいます。
ファシリティマネジメントの定義
ファシリティマネジメントという経営手法は、1970年代にアメリカで生まれ、やや遅れて日本へと波及しました。
ただ、その以前から、次のような手法は存在していました。それは、投資用資産としての不動産価値向上を主目的とするアセットマネジメント、財産としての不動産を管理するという意味のプロパティマネジメント、資産としてではなく物理的な面で建物の維持・管理をしていくビルディングマネジメントなどです。
これらすべてを包括したものがファシリティマネジメントであり、日本語でいう「施設管理」とは意味合いが異なります。「建物や設備を現状のまま維持・保全する」ことだけが目的ではありません。それはファシリティマネジメントにおけるプロセスの一部ではありますが、「総合的かつ統括的に企画、管理、活用する経営活動」とは異なります。そのため、ファシリティマネジメントは日本語に訳さず、そのままの表現で浸透していきました。まだ新しい考え方であるこの分野は、今後も意味や手法が拡大し、さらに重要性を増す可能性を持っています。
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ファシリティマネジメントがもたらす効果
ファシリティマネジメントは、次のような効果をもたらします。
- 資産価値の向上
メンテナンス履歴や業者のリスト、契約関係書類などが整備されることにより、売却時の価格が向上します。 - 資源としてのファシリティ最適化と有効活用
余剰であったり、不足していたり、または最適とはいえない使われ方をしている施設や設備を見直すことで、経営資源としてのファシリティを有効に活用することができます。 - ファシリティコストの最小化と経営効率の向上
メンテナンス履歴や業者のリスト、契約関係書類などが整備されることにより、売却時の価格が向上します。 - ビジネスモデルに適したファシリティの提案・提供
新規施設利用者のビジネス展開に適したファシリティを提案・提供することで、利用者の生産性が上がります。また、既存の利用者にとっても、ファシリティの管理方法見直しにより利便性や快適性が向上します。 - ファシリティのエネルギーマネジメントによる環境問題への貢献
施設の省エネルギー化により、社会全体の環境問題に対して効果的な解決手段となります。
BCP/DRとファシリティマネジメント
2011年の大震災以降、特に注目を集めるようになった言葉にBCPとDRがあります。
BCP(Business Continuity Plan)とは事業継続計画のことであり、災害時に事業資産の損害を最小限にとどめ、事業の継続・早期復旧のため平常時から策定しておくべき計画を指します。またDR(Disaster Recovery)は、主にシステム面での災害復旧のことです。
これらBCPとDRにおいて、ファシリティマネジメントは大きな関連性があり、重要な役割を担っています。その理由としてファシリティの持つ2つの側面があります。1つは、ファシリティがヒト・カネ・モノ、さらに情報やシステムとともに、それ自体が経営資源であること。もう1つが、ファシリティが企業の経営活動を行うための物理的な場であることです。
しかしこの2つはあくまで企業活動の復旧、事業の継続を考えた場合の要素であり、何より優先されるべきは人命です。ファシリティを利用している人たちの命を守るためにも、BCP策定時にファシリティマネジメントが非常に重要となります。
次に挙げるのは、BCP策定フローの一例です。
- 策定体制の構築
- 現況の把握
- 被害の想定
- 通常業務の整理
- 災害応急対策業務の整理
- 業務継続のための優先業務の整理(概要表の作成)
- 行動計画の文書化
- BCPの取りまとめ
(引用:大規模地震発生時における災害拠点病院の事業継続計画(BCP)策定ガイドライン)
この策定フローでは、2~6のステップにファシリティマネジメントが関わっています。現況を把握し被害を想定するには、ファシリティの現況と管理状態の把握が必要となります。また通常業務を整理したうえで、災害時にできる業務と、そこから復旧に向けて優先すべき業務を整理する段階においても、同じことがいえます。さらにファシリティマネジメントが徹底されていることで、より高い水準でのBCPを策定できることにもつながります。
またDRについても同様に、ファシリティマネジメントによってサーバーの設置場所やケーブリングの見直し、クラウドの活用を検討することにより、ダウンタイムを短縮できます。
このように、ファシリティマネジメントはBCPおよびDRにおいて非常に重要であり、災害時に経営資源を守り経営活動をいち早く復旧する役割も担っています。
ファシリティマネジメントの推進と導入例
ファシリティマネジメントは多くの機関で導入され始めています。
国土交通省は、国家機関の有する建築物の現状と課題と、これからの施策展開の方向性について検討しており、その内容をまとめた報告書のなかでは、次のような記述があります。
“全ての国家機関の建築物について、そのライフサイクルを通じて、総合的に企画・管理し、活用するといういわゆるファシリティマネジメントを実施すべきである。”
(引用:国家機関の建築物を良質なストックとして整備・活用するための官庁営繕行政のあり方について)
また財務省では、「新成長戦略」のひとつとして、未利用国有地等の国有財産の活用について議論しています。この検討結果をまとめた「新成長戦略における国有財産の有効活用について」は、まさにファシリティマネジメントの重要性を訴えている内容となっています。
(参考:「新成長戦略」における国有財産の有効活用について)
一方、自治体においてもその導入が進んでいます。
一時、報道でも取り上げられた武雄市の図書館は、ファシリティマネジメントの好例といえます。同市の「新・ 図書館構想」では「市民の生活をより豊かにする図書館」というコンセプトのもと、蔦屋書店の運営元との官民連携によりファシリティの有効活用に成功しています。
また三鷹市では、三鷹市都市再生推進本部内にファシリティ・マネジメント推進チームを設置、都市再生ビジョンにとって重要な位置づけとなっています。
このように公的機関の建築物においても、ファシリティマネジメントが今後の運用における方向性を決めるとして注目されているのです。
重要性を増すファシリティマネジメント
ファシリティマネジメントはこれまでの保全・維持だけを目的とした施設管理とは根本から異なる目的を持った、不動産の新しい運用手法です。この手法がもたらす効果は不動産価値を高めることだけではありません。ファシリティの運用者と利用者、さらに環境に対してなどさまざまなメリットをもたらします。国や各省庁においても注目され始めたファシリティマネジメントが、これからの日本で重要な役割を持っていくことが予想されます。
参考: