一般送配電事業者9社が揃って約款変更
6月15日に公開したブログで、「最終保障供給料金は、今後市場連動型となり、卸市場価格高騰時に電気料金が更に上がる可能性がある」とお伝えしました。
最終保障供給の見直し案…市場連動でさらに電気代は上がる?需要家側の今後の対策とは
ついにその可能性が現実となりました。8月10日、経済産業省は北海道電力ネットワーク株式会社、東北電力ネットワーク株式会社、東京電力パワーグリッド株式会社、中部電力パワーグリッド株式会社、北陸電力送配電株式会社、関西電力送配電株式会社、中国電力ネットワーク株式会社、四国電力送配電株式会社、九州電力送配電株式会社からの最終保障供給約款の変更届出を受理したと発表しました。その変更内容は2022年9月1日より「市場価格調整額」を新たに設定するものです。
【現 行】
最終保障供給料金 = 基本料金 + 電力量料金(従量料金 ± 燃料費調整額) + 再生可能エネルギー発電促進賦課金
【変更後】
最終保障供給料金 = 基本料金 + 電力量料金(従量料金 ± 燃料費調整額 ± 市場価格調整額)+ 再生可能エネルギー発電促進賦課金
燃料費の高騰が続いている現状では実質電気料金値上げに直結することとなります。これまで「市場連動型プラン」を提供してきた電力会社はありましたが、一時的なセーフティネットである最終保障供給にこの仕組みが導入されるのは異常事態と言えます。
新たに導入される「市場価格調整額」その仕組みは?
市場価格調整額を中国電力ネットワーク株式会社の公表資料をもとにご説明します。
市場価格調整額 = 市場価格調整単価 × 使用電力量
ここで用いられる市場価格調整単価は以下のとおり算出されます。
市場価格調整単価 = 卸電力取引市場価格 + 託送供給等約款の電力量料金単価 – 電気最終保障供給約款の電力量料金単価
約款による単価は各電力会社によって決められたものですが、市場価格によって変動する卸電力取引市場価格がポイントとなります。卸電力取引市場価格は一般社団法人日本卸電力取引所(JEPX)が運営するスポット市場における、各エリア(中国、関西など)の取引価格(エリアプライス)に基づき算定されます。
この卸電力取引市場価格の①高騰時②平常時③下落時の3パターンで市場価格調整額の適用が決まります。
①高騰時
補正後平均市場価格(平均市場価格 + 託送料金電力量料金単価等)が電気最終保障供給約款の電力量料金単価(燃料費調整単価を加味)を上回る場合、市場価格調整額が加算されます。
市場価格調整額 = 補正後平均市場価格 - 電気最終保障供給約款の電力量料金単価(燃料費調整単価を加味)
②平常時
市場価格調整額は加算も減算もされません。
③下落時
補正後平均市場価格が3.47円/kWh(2019~2021年度で最も安い期間の平均値:2020年4月21日~5月20日)を下回る場合、市場価格調整額が減算されます。
市場価格調整額 = 中国電力株式会社が公表する標準的な電気料金メニューの電力量料金単価(燃料費調整単価を加味)と同一水準となるように設定した一定の単価
下図も併せてご覧いただければと思いますが、市場連動とはいえ市場価格下落時に標準メニューの単価より下がる調整が行われることはありません。
出典:中国電力ネットワーク
市場価格調整単価は検針日の前々月21日~前月20日までのエリアプライスの実績値に基づき算出され、当月の料金に適用されます。
各エリアの電力会社が資料を公表していますので、管轄エリアの電力会社ホームページをご確認ください。
実際どうなる?料金イメージを掴もう!
需要家の皆様が実際に支払う電気料金はどうなるのでしょうか。中国エリアを例にした試算でイメージを掴みましょう。
【前提】
契約種別:最終保障電力A
契約電力:100kW
供給電圧:6,000V
使用電力量:20,000kWh/月
力率:100%
基本料金:2,079.00円/kW
電力量料金:夏季17.06円/kWh、その他季15.66円/kWh
【市場価格調整単価】(中国エリアプライスの過去実績に基づく試算値)
2022年6月 1.70円
2022年7月 0.00円
2022年8月 5.38円
6月 | 導入前 | 導入後 | |
基本料金 | 2,079円/kW×100kW+{207,900円×(85-100)%}=176,715円 | 同左 | |
電力量 料金 |
従量料金 | 15.66円/kWh×20,000kWh=313,200円 | 同左 |
燃料費 調整額 |
5.22円/kWh×20,000kWh=104,400円 | 同左 | |
市場価格 調整額 |
– | 1.70円/kWh×20,000kWh=34,000円 | |
再生可能エネルギー 発電促進賦課金 |
3.45円/kWh×20,000kWh=69,000円 | 同左 | |
請求額 | 663,315円 | 697,315円 | |
影響額 | 34,000円 |
7月 | 導入前 | 導入後 | |
基本料金 | 2,079円/kW×100kW+{207,900円×(85-100)%}=176,715円 | 同左 | |
電力量 料金 |
従量料金 | 17.06円/kWh×20,000kWh=341,200円 | 同左 |
燃料費 調整額 |
6.72円/kWh×20,000kWh=134,400円 | 同左 | |
市場価格 調整額 |
– | 0.00円/kWh×20,000kWh=0円 | |
再生可能エネルギー 発電促進賦課金 |
3.45円/kWh×20,000kWh=69,000円 | 同左 | |
請求額 | 721,315円 | 721,315円 | |
影響額 | 0円 |
8月 | 導入前 | 導入後 | |
基本料金 | 2,079円/kW×100kW+{207,900円×(85-100)%}=176,715円 | 同左 | |
電力量 料金 |
従量料金 | 17.06円/kWh×20,000kWh=341,200円 | 同左 |
燃料費 調整額 |
9.01円/kWh×20,000kWh=180,200円 | 同左 | |
市場価格 調整額 |
– | 5.38円/kWh×20,000kWh=107,600円 | |
再生可能エネルギー 発電促進賦課金 |
3.45円/kWh×20,000kWh=69,000円 | 同左 | |
請求額 | 767,115円 | 874,715円 | |
影響額 | 107,600円 |
試算はあくまでも試算でしかありませんが、支払いが月々10万円プラス→年間120万円プラスになる可能性があると考えると大変な問題です。
6月から8月にかけての試算を見てお気付きの方もいらっしゃるかもしれませんが、燃料費調整単価も上がり続けています。これらの単価は需要家が直ちにどうにかできるものではないため、使用量、つまり電気の使い方を見直す対策が必要です。
標準メニューの復活は?
各電力会社は下記の通り標準メニュー復活への対応を公表しています。
電力会社 | 対応内容 | 公表日 |
北海道電力株式会社 | 2022年12月末から2023年1月上旬を目処に受付開始、2023年4月供給開始予定。 | 不明(2022年8月22日時点最新) |
東北電力株式会社 | 基本料金、電力量料金の単価を見直した新たな単価を2022年11月以降契約分から適用。他社からの切替え、最終保障供給約款適用中の場合2022年11月以降見直し後の標準メニューでの受付開始予定。 | 2022年7月29日 |
北陸電力株式会社 | 2023年1月受付開始、2023年4月供給開始予定。 | 2022年7月29日 |
東京電力パワーグリッド株式会社 | 標準メニューの見直しを検討。2022年9月末までに方針発表予定。2023年4月供給開始予定。 | 2022年8月2日 |
中部電力ミライズ株式会社 | 標準メニューの見直しを検討。2023年1月までに協議再開、2023年4月供給再開予定。 | 2022年7月26日 |
関西電力株式会社 | 2022年内受付開始、2023年4月供給開始予定。 2023年4月までは新たな電気料金プランの提供も検討。 | 2022年7月29日 |
中国電力株式会社 | 2023年4月以降の新規契約開始検討。2023年1月頃受付開始予定。 | 2022年7月29日 |
四国電力株式会社 | 市場連動型メニューでの契約を前提に2022年8月3日から申込受付開始。2023年4月1日付で標準的な料金メニューでの契約更新予定。 2023年度の電力需給開始希望の場合、標準的な料金メニューでの契約を前提に2022年12月頃申込受付開始予定。 |
2022年8月3日 |
九州電力株式会社 | 2023年2月頃受付開始、2023年4月供給開始予定。 | 2022年8月3日 |
各社とも電気を売れば売るほど赤字になる状況に悪戦苦闘しています。先を見通せない状況だからこそ、冷静に情勢や電力会社の動きを見て選択をする必要があります。
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参考:
- 一般送配電事業者9社から最終保障供給約款の変更届出を受理しました|経済産業省
- 電気最終保障供給約款の変更届出について|中国電力ネットワーク株式会社