一から学ぶ電力自由化(第五回)参入者たち 後編

 前回に引き続き、新電力事業参入者を、本業のカテゴリ別にまとめてみました。前回、今回でまとめた以上に、新電力事業者は数多くの業種から参入してきています。

1.石油事業者

石油事業者は、原油および石油製品の輸入、精製、販売(主として一次卸、大口直売)に従事する会社を指します。このような石油会社は、2014年9月末時点で17社あります。このうち、特約店、給油所、灯油の店等の流通機構や直接販売(直売)を通じて、消費者、需要家に石油製品の販売を行っている石油会社は「石油元売会社」と呼ばれています。これらは外航タンカー会社、石油基地会社、石油精製会社、特約店、販売店等とともに、商流・物流におけるネットワークの中心として、石油製品の輸出入、国内向け販売等を通し、各種の需給調整機能を担っているのです。

資源エネルギー庁の資料によると石油消費量は1999年以降減少しており、自動車の燃費が大幅に改善されたことが背景として挙げられます。そのため、石油会社は小売電気事業を収益源の多様化の機会とすべく参入してきました。

石油会社は石油や天然ガスなど、発電に使用する燃料を自前で調達することができるため、競合より価格面で有利になることができ、電気の価格面で強みを活かすことができます。また、ガソリンスタンドで消費者と直接の接点を有するので、既存事業との相乗効果も生まれます。こうした環境も積極的に小売電気事業に参入する動機を強くしたのでしょう。

 

石油事業者は、電源の調達力については強大な資本力、燃料の調達力を背景に発電所を建設するなど、新規参入事業者の中でも群を抜いています。また、全国津々浦々にガソリンスタンドを所有していることや、産業用としても石油は利用されるため、低圧および高圧に十分な販路・人員が確保できます。

また、低圧自由化以前の高圧自由化時代から、特定規模電気事業者として電力の供給をしていた実績をもつ企業も多く、電力小売事業におけるノウハウも、十分に蓄積されています。

このことから小売事業者の中でも、一般電気事業者に対抗できる大本命の企業と目されているのです。

 

2.通信事業者

通信事業者とは、音声通話やデータ通信をはじめとする各種の通信サービスを提供する事業者です。携帯キャリアの他にケーブルテレビ系や光回線のサービスを提供する事業者も含まれます。都市部や地方を問わず全国規模でのサービス提供を行っており、拠点数や人員数も相当の規模を確保しています。

 

電力小売自由化の流れの中で、通信事業者は既存電力会社のバンドル商材として需要があり、自社顧客の流出を防ぐために、受動的な形で参入したように見受けられます。一方、ケーブルテレビ会社などは、自社サービスのラインナップの一つに電力という商品を加えることで、営業機会の増加に期待を寄せているため、携帯電話会社に比べ、意欲的な印象です。

大手通信キャリアと呼ばれるソフトバンク、KDDIの資本金は業界トップクラスとも言えます。また、各社とも連結ベースでの人員は相当数おり、電力販売を優位に進めるには十分な規模です。一方で、エネルギー商材を扱った事業の経験に乏しいことから、これだけの規模の人員に対してどのようにノウハウを共有して販売を進めるかが課題となっています。

通信事業者各社とも低圧一般家庭をターゲット顧客としています。その一方で留意すべき点としては、携帯電話はあくまで個人向けのサービスであるため、一概に利用者全員を電力需要家数と見ることはできません。それでも、相当の顧客を保有していることが見込まれるため、販路としての提携先としては十分なポテンシャルを有しています。

3.ハウスメーカー

 電力の小売全面自由化が作り出す新市場に対して、住宅会社の動向が与える影響は極めて大きいといえます。キャスティング・ボードを握っていると言っても過言ではないでしょう。その理由は2つ。1つは、住宅会社は一般家庭との結びつきが非常に強いことです。住宅を新築する際にはさまざまな打ち合わせ案件が発生するため顧客(施主)とは何回も会うことになります。しかも住宅の新築は電力供給会社を切り替えるきっかけになります。つまり住宅会社は毎年数万戸単位で電力需要家を獲得できる可能性を秘めていることになるのです。

 もう1つの理由は、大量の世帯数を顧客として抱えていることです。大手ともなると、10万、20万といった世帯数が彼らの顧客といえるほどです。そのためほかの新電力事業者は住宅会社の存在を黙って見逃さないでしょう。何と言っても電力需要家を獲得する絶好の機会を有していることと、一般家庭との深いつながりを持っていることは大きな魅力です。このため自らのバランシング・グループ(BG)に組み入れるべく、大手をはじめ多くの電力会社が声を掛けてくることでしょう。パートナーはよりどりみどり。これがハウスメーカーの置かれた立場です。

また、住宅会社が小売電気事業に参入している理由は需要家(一般家庭)との関係強化にあります。戸建住宅の注文から設計、施工、受け渡しまでの各工程では、担当者が需要家の人生設計に関する重要な場面に立ち会い、長期的な関係性を構築することになります。この需要家との接点をより強化するための付加価値サービスとして小売電気事業を位置付けています。電気を販売するだけでなく、需要家に対して省エネのアドバイスをしたり、将来的には家電機器と連携して住宅全体のエネルギーを管理するEMS(Energy Management System)機器を設置したりすることも視野に入ってくるでしょう。

ハウスメーカーは、今後、エネルギー情報を管理するホーム・エネルギー・マネジメント・システム(HEMS)やビル・エネルギー・マネジメント・システム(BEMS)、マンション・エネルギー・マネジメント・システム(MEMS)などの実証実験を経て、居住者向けの省エネ・サービスを開発し、需要家のロイヤルティをさらに高めることを目指すでしょう。

4.太陽光発電事業者

太陽光発電事業者は、FIT制度における高い固定買取価格を背景に大きな成長を遂げました。しかし、今やその成長に翳りが見え始めています。固定買取価格が年々低下していることが大きな理由です。そこで今後、新たな収益源を確保するために小売電気事業の強化に乗り出しています。

太陽光発電事業者は電力の自由化が始まった当初から小売電気事業に参入しており、これまでは太陽光発電事業で培った営業力を生かして高圧需要家を対象に順調にビジネスを拡大させてきました。太陽光発電新電力トップはLooopであり、他にサニックスやウエスト電力も大きく売上を伸ばしています。いずれの企業も2017年までは順風満帆にビジネスを展開できるでしょうが、2018年ごろから風向きが変わるでしょう。理由は3つ。1つは、太陽光発電への偏重度が極めて高いことです。2つめは、営業担当者の人数が多すぎる一方で小売電気事業に関する知識を持った人材が少ないこと。3つめは、都市ガス会社や大手電力会社による巻き返しの標的になってしまうことです。

 

都市ガス会社や大手電力会社が大規模な発電所を保有していることと比べると、太陽光発電しか持たない新電力事業者は価格競争で対抗することは難しいでしょう。この結果、太陽光発電系の新電力事業者の多くは2020年までに小売電気市場からの撤退を余儀なくされることが見込まれています。

 

5.電気設備/エンジニアリング会社

電気設備/エンジニアリング会社系の新電力事業者は、電気技術に関する知識が豊富です。その知識を活用して需要家に電気を供給すると同時に、電気/電力設備の保守やメンテナンス、省エネ機器の提案などを付加価値として提供しています。代表的な事業者としてはエネサーブやテス・エンジニアリング、洸陽電機、グローバルエンジニアリングなどが挙げられます。この中で最古参は2008年に大和ハウス工業の完全子会社として設立されたエネサーブです。

いずれの事業者も特別高圧需要家もしくは高圧需要家だけを対象にしたビジネスを展開していますが、洸陽電機だけは別です。同社は特別高圧と高圧の需要家に加えて、一般家庭などの低圧需要家の獲得にも積極的に取り組んでいます。

ただし、電気設備/エンジニアリング会社系の新電力事業者はいずれも、たくさんの電力需要家を獲得して小売電気事業を大きく伸ばすことは望んでいない場合が多いようです。それよりも大きな期待を掛けているのは将来市場が確立される予定のネガワット・アグリゲーター事業です。

ネガワット・アグリゲーターは需要家の節電量をとりまとめる中間業者で、節電量に応じて報酬を受けるビジネスです。電気設備/エンジニアリング会社系の新電力事業者は大規模な工場などを需要家に抱えています。こうした工場に対し、供給量に合わせて消費電力量を調整するデマンド・レスポンスの手法を提案したり、省エネ機器の採用を勧めたりすることなどで節電を実現します。従って、ネガワット・アグリゲーター事業に参入すれば小売電気事業以外でも収益を得ることも可能になるでしょう。

その強みは何と言っても、電気/電力に関する知識が豊富なことです。例えば日本テクノは法人向け受電設備の保守サービスが本業です。これに加えて消費電力のピークカットや節電のアドバイスを行う「電力の見える化コンサルティング」も提供しています。

 

さて、いかがだったでしょうか。

新電力事業に参入する会社の参入動機は様々ですが、最終的にはユーザーに選ばれ続ける新電力事業しか生き残っていくことはできません。しかし、需要家に選ばれるだけのロイヤリティを持った新電力事業者はそう多くなく、需要家に向いたサービス開発やリレーションの構築が求められます。500社近くが参入している新電力事業も、2020年には半分、いえ、100社程度にまで減少するという見方が強い中、新電力事業者の挑戦は始まったばかりと言えましょう。