ファシリティマネジメントは、1970年代後半にアメリカで生まれました。当時のアメリカは景気低迷が進んでいました。オフィス家具メーカーで有名なハーマンミラー社は、ミシガン州立大学のアームストロング教授を中心に、ファシリティを有効活用しようというファシリティマネジメント研究所を設立しました。この研究所は、のちにファシリティマネジャーの職能確立と、ファシリティマネジメントの普及・認知のための組織として国際ファシリティマネジメント協会(IFMA)に発展しました。今では、IFMAは104カ国、会員数約24,000 人のファシリティマネジメントの専門家を有するグローバル組織に発展しています。
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その後、1990年代に入ると、この活動はイギリス、オランダを始めとしてヨーロッパ全土に広がりました。ヨーロッパでは、アウトソーシングビジネスとしてファシリティマネジメントのサービス提供者が急速に成長しました。同時期に、上海、シンガポール、香港、オーストラリアにもIFMAの支部が設立されました。1990年代後半には、中南米、アフリカにも広がり、2000年以降はアジア独自のファシリティマネジメント協会が発足し、ファシリティマネジメントへの取組が進展しています。
一方、日本にファシリティマネジメントの概念が導入されたのは、 1980 年代半ば頃です。 もっとも、順調にファシリティマネジメントが進んだわけではなく、企業や自治体などが積極的に取り組むようになったのは近年のことです。日本ではバブル期まで、老朽化した建物はすぐに壊して、すぐに新しい建物を造るという「スクラップ&ビルド」という考え方を主流としていました。地震や台風などの災害が多いという特殊な背景も相まって、建物を長期間に渡って使用するという考え方が希薄でした。また、経済成長とともに不動産の価格も上がり続けたため、建設を行うための資金調達が容易でもあったのです。しかし、バブルが崩壊すると、日本経済の成長は急速に緩やかになり、資金調達が以前ほど容易でなくなりました。そのため、建物を耐用年数まで長期間にわたって有効活用することが求められるようになります。しかし、建物を長く使えば使うほど、老朽化や設備の故障などに対応する必要があり、運用コストも上昇します。こうした経緯で、人々はファシリティが経営資源の1つであり、そのファシリティを管理する手法としてのファシリティマネジメントが導入期とは別の期待と理解で受け入れられるようになりました。ファシリティマネジメントは、テレビや新聞、雑誌などマスメディアでも取り上げられるようになりました。
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1987年に、日本ファシリティマネジメント協会(JFMA)が発足しました。JFMAが行う事業は、次のとおりです。
- ファシリティマネジメントに関する資格認定事業
- ファシリティマネジメントに関する教育研修事業
- ファシリティマネジメントに関する表彰事業
- ファシリティマネジメントに関する調査研究事業
- ファシリティマネジメントに関する広報事業
- ファシリティマネジメントに関する交流事業
- 本協会の目的を達成するために必要な事業
また、ファシリティマネジメントを効果的に行うために、ファシリティマネジャーの資格制度も創設されました。ファシリティマネジメントの有用性については、通商産業省(現在の経済産業省)と建設省(現在の国土交通省)が早くから着目していました。そこで、1991年にはファシリティマネジメント推進連絡協議会が組織され、資格制度創設が目指されたのです。また、1994年には資格試験の学習範囲を示すためにファシリティマネジメントガイドブックも編集されました。そして、1996年にはJFMAは社団法人化されるとともに、ファシリティマネジャーの資格制度が実現しました。1997年に最初の試験が実施され、2017年9月時点で、受験合格者は14,000人を超えています。
2000年代になると、知的生産性の向上を支援する、先進的なファシリティマネジメントの手法が広がりました。集中ブース、フリーアドレスなど、ICTの進展を背景にワークプレイスへの関心が集まったのです。ファシリティコストの削減だけでなく、ファシリティの有効な活用によって、人のリストラを軽減もしくは回避することができるということに気がつく企業が増えたことを表します。
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2006年には、日本ファシリティマネジメント大賞(JFMA賞)の表彰制度が始まりました。これは、ファシリティマネジメントに関する優れた業績および功績のあった組織と個人を表彰することにより、日本国内におけるファシリティマネジメントの普及・発展に資することを目的とした賞です。直近では2017年12月に第12回大会で、武蔵野生涯学習振興事業団が最優秀ファシリティマネジメント賞を受賞しました。武蔵野市立旧西部図書館を「ひと・まち・情報 創造館 武蔵野プレイス-アクションの連鎖-」というテーマで、施設拡充を図り、青少年のためのスペース、社会人用の有料コワーキングスペース、会話のできる子ども連れエリアなど、知的創造や交流を推進し、地域社会の活性化を深められるような活動支援型の公共施設としたものです。
一方、ファシリティマネジメントは地方自治体にも広がっています。地方自治体は、高度経済成長に合わせて建設された多くの公共施設の更新・維持管理に莫大な予算が必要と見込まれています。しかし、少子高齢化の時代にあって、無用の長物と化してしまう建物が多いことも事実です。そこで、行政サービス機能を維持しながらも、できるだけ総量を減らして、使い続けるべき施設を拡充して長寿命化させることが重要課題です。
このように、アメリカから始まったファシリティマネジメントの波は、わずか20年ほどで世界中に伝播し、ファシリティの価値を重要な経営資源とされるまでに至りました。2018年にはISOシリーズとして国際標準認証制度になろうとしています。このようなファシリティマネジメントの国際標準化の動きは、ファシリティマネジメントを新たな段階に進めることになるでしょう。