※本記事は2014年4月15日~5月15日に公開した実稼働率の低い太陽光発電の更なる課題(1)~(3)を1記事に統合したものです。
太陽光発電は、「太陽電池」と呼ばれる装置を用いて、太陽の光エネルギーを直接電気に変換する発電方式です。
太陽の光という無限のエネルギーを活用する太陽光発電は、クリーンエネルギーの1つであり、もっとも設置がしやすく、企業や自治体、公共施設だけでなく一般家庭にまで普及が進んでいます。
1:新設計画と実稼働の間に大きな差
FIT制度とは
平成24年7月1日、「電力事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」が施行され、これにより電力事業者が再生可能エネルギーについて一定期間、一定価格で全量買い取る制度が開始しました。平成24年度に設備認定を受けた太陽光発電の買い取り価格および期間は42円/kWhで20年と決定しました。
制度の影で生まれた問題とは…
制度の影響により、太陽光発電を事業としてとらえる人・企業が増え、太陽光発電システムの価格は下がり、住宅用太陽光発電導入量、および全導入量は年々増加傾向にあります。[図1]
[図1]経済産業省 資源エネルギー庁 エネルギー白書2013より
2012年度の太陽光発電の新設計画は2,002万kW。これらが稼働し始めると、2011年度までに国内にあった太陽光発電(約530万kW)が5倍近くに増えることになり、原子力発電所20基分の発電量と同等になります。しかし、計画のうち同年度中に運転を開始したものは197.5万kWに留まり、稼働済みは1割未満となりました。
経済産業省は事態を重視し、発電計画の実態調査に乗り出しました。
新設計画と実稼働に大きな差を生んだ背景
(1)電力会社に義務付けた買い取り制度による影響
・太陽光発電の2012年度買い取り価格:42円/kWh
→「非常に良い条件」(太陽光発電協会)と評価する高めの設定
→新規事業者や異業種の参入が相次ぎ太陽光発電計画は急増
・太陽光発電の2013年度買い取り価格:37.8円/kWh
→パネルなどの値下がりを受けて買い取り価格が引き下げられたものの、まだ高めの水準(=売電利益が出る)
(2)需要急増で太陽光パネルなどの調達に時間がかかる
・経済産業省はこれを主な原因と分析する
(3)計画認可を得るだけで意図的に設備建設や稼動を遅らせるケース
・買い取り価格は計画の認定時点のものが適用されるため、認定だけ受けて有利な条件を確保する
・実際の発電開始を遅らせて建設費が値下がりすれば、利益が増える
(4)所有権のない土地で認定を受け、売電の権利を転売する事業者
・所有権のない土地で認定を取得し、売電の権利だけを転売するブローカー(仲介業者)の報告事例がある
・地主の了解を得ずに設備認定を受けたケースがこれにあたる。
(5)行政や電力会社など受け手側の問題
太陽光発電の急増で送配電許容量が上限に迫り、建設を控えるよう事業者に要請する異例の事態
→発送電分離など電力改革が必要となる
これらの調査結果から、2月14日、経済産業省は認定取り消しの方向で検討に入ることを発表しました。
認定取り消しについてと(5)受け手側の問題については下で説明します。
参考:
2:新設計画と実稼働の差を解消するために
1で述べた差を解消するために、固定価格買取制度の認定運用が平成26年4月1日から変更となりました。
変更内容は大きく分けて3つです。
(1)場所及び設備の確保に関する期限の設定について
経済産業省では、「認定を受けながら理由なく着工に至らない案件がある」との指摘を受け、平成24年度中に認定を受けた運転開始前の太陽光発電設備に対し法に基づく報告徴収を実施しました。その結果、認定後約1年の期間が経過していますが、場所・設備が確保されておらず、買取価格の維持が妥当とは思われない認定案件が確認されたことを背景に、平成26年4月1日以降に認定の申請が到達した案件に対しては、認定後180日を経てもなお場所及び設備の確保が書類により確認できない場合、認定が失効するように認定の運用変更となりました。
具体的な措置内容は以下の通り。
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(1) 対象設備 : 50kW以上の太陽光発電設備
(2) 確認内容 : 認定に係る場所及び設備の確保の有無
(3) 確認のために要する書類:
①場所関係 : 登記簿謄本
設備を設置する土地等が他人所有(当該認定者との共有を含む。)の場合は、登記簿謄本に加え、当該認定者に当該土地等を使用する権原が当該設備の運転期間中において帰属することを示す契約書等の書面
②設備関係 : 契約書、若しくは発注書及び発注請書、又は自ら製造していることを証明する書面
(4) 書類の提出方法 : 申立書と(3)の書類を、認定を受けた各経済産業局に下記期限までに提出(必着)
(5) 書類の提出期限 : 認定書に記載された認定日の翌日から起算して180日後(この日が、行政機関の休日に関する法律(昭和63年法律第91号)第1条に規定する休日の場合には、翌開庁日とする)
(6) 書類の提出がない場合の効果 : 認定は失効する。再度認定を受ける場合は、改めて認定申請が必要
(7) 例外的措置 :
①電力会社との連系協議が長引く場合
ア)電力会社への接続契約の申込みの受領から連系承諾通知の発信までの期間が、認定日以降(5)の期限までの間に、90日を超えた事実がある場合は、電力会社による証明書を(5)の期限までに提出すること(必着)により、期限を、認定書に記載された認定日の翌日から起算して270日後まで延長する。
イ)上記ア)の措置を受けた場合において、電力会社への接続契約の申込みの受領から連系承諾通知の発信までの期間が、認定日以降、ア)の措置により付与した期限までの間に、180日を超えた事実がある場合は、電力会社による証明書をア)の措置により付与した期限までに提出すること(必着)により、期限を、認定書に記載された認定日の翌日から起算して360日後まで延長する。
②被災地域にて申請する場合
認定に係る場所が、東日本大震災の被災地域(※)に該当する場合は、(5)の期限を、認定書に記載された認定日の翌日から起算して360日後(①の例外的措置との併用は不可)とする。
(※)本措置における被災地域
①原子力災害被災地域(避難指示区域及び避難指示が解除された地域を含む市町村)・・・
福島県(川俣町、田村市、飯舘村、葛尾村、川内村、南相馬市、浪江町、双葉町、大熊町)
②津波浸水地域(津波で甚大な被害を受け、内陸部への集団移転等が必要となった地区を含む市町村)・・・
岩手県(洋野町、久慈市、野田村、普代村、田野畑村、岩泉町、宮古市、山田町、大槌町、釜石市、大船渡市、陸前高田市)、宮城県(気仙沼市、南三陸町、石巻市、女川町、東松島市、松島町、利府町、塩竈市、七ヶ浜町、多賀城市、仙台市(宮城野区、若林区、太白区に限る)、名取市、岩沼市、亘理町、山元町)、福島県(新地町、相馬市、南相馬市、いわき市)、茨城県(北茨城市)
引用元:平成26年度の認定運用を変更します|経済産業省 資源エネルギー庁
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これらの策定に関して寄せられたパブリックコメントでは、大規模発電所(メガソーラー等)については12ヵ月を期限としてほしい、50kW以上で6ヵ月は厳しすぎるといった意見が多く寄せられていましたが、「報告徴収のデータに基づけば現実に6か月で約8割の案件が土地及び設備の確保を終了させていることから、認定失効までの期間を6か月としております。」との回答でした。
引用元:「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法施行規則の一部を改正する省令案等」に対する意見募集の結果について[パブリックコメントの公表]|イーガブ
1で述べた(1)電力会社に義務付けた買い取り制度による影響、(3)計画認可を得るだけで意図的に設備建設や稼動を遅らせるケース、(4)所有権のない土地で認定を受け、売電の権利を転売する事業者の解消のための措置と思われます。
(5)行政や電力会社など受け手側の問題については書類提出を前提として期間延長が認められますが、平成26年度の申請からは180日以内に条件を満たせない可能性を事業リスクとして考慮する必要があります。
(2)地権者の証明書の取り扱いについて
認定の後、共有者全員の同意が存在していないことが明らかになるケース、地権者が同一の土地に関し複数の者に同意書を発行しているケースなど、場所の確保を巡ってトラブルが発生しています。このため、他の共有者を含む地権者の同意が存在することの確認を、以下のとおり徹底することとします。
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(1) 対象設備 : 50kW以上の太陽光発電設備
(2) 提出書類の強化 (土地の共有関係等)
· 認定申請時点で、設置場所に係る土地等を所有せず、又は賃借せず、若しくは地上権の設定を受けていない場合には、当該土地等の登記簿謄本(写しで可)、及び、当該土地等を譲渡し、又は賃貸し、若しくは地上権を設定する用意がある旨の権利者の意思を示す書面(以下「権利者の証明書」という。)の提出を求める。
· 設置場所に係る土地等が共有に係る場合(認定申請者が共有者の一であると否とを問わない。)には、認定申請時点で、当該土地等の登記簿謄本に現に権利者として表示されている共有者全員の名簿、及び認定申請者を除く当該共有者全員の権利者の証明書の提出を求める。
(3) 複数の権利者の証明書が確認される場合の扱い
· 認定の審査に当たり、同一の土地に関し、両立しないと認められる複数の権利者の証明書が発行されていることが確認された場合は、当該申請を行った者は、当該権利者の証明書の発行者から、最終的な意思に基づく同意を一に決定したことを証する文書を入手し、認定に係る経済産業局に対し文書で提出されるまで、認定の審査を留保する。
引用元:平成26年度の認定運用を変更します|経済産業省 資源エネルギー庁
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こちらも、1の(4)所有権のない土地で認定を受け、売電の権利を転売する事業者やそれに類似した土地契約トラブルの解消のための措置と考えられます。高い買電価格のために、急ぎで認定申請したために地権者の同意が後になってしまった…という場合も多いでしょう。
(3)分割案件の取り扱い
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事実上、同一の事業地における大規模設備を意図的に小規模設備に分割した場合(以下「分割案件」という。)、①本来適用される安全規制の回避等による社会的不公平、②電力会社の設備維持管理コストの増加による、事業者間の不公平や電気料金への転嫁の発生、③不必要な電柱、メーター等の設置による社会的な非効率性の発生等の問題が発生することとなるほか、④今回新たに運用が開始される条件付き認定を回避することにもなります。
こうした問題は、原則として、発電事業の規模や事業採算性にかかわらず、分割により発生しうるため、一律に運用し、分割案件については、関連する該当発電設備をまとめて一つの認定申請案件とするなど、適正な形での申請を求めることとし、これに応じない場合は認定をしないものとします。
なお、「一つの場所において複数の再生可能エネルギー設備を設置しようとするもの」に該当するかどうかは、下記に沿って判断します。なお、下記に形式的に該当する場合であっても、分割によって回避される法規制の有無、社会的非効率の発生の程度等を実質的に評価し、分割案件に該当しないと判断する場合もあります。
· 実質的に同一の申請者から、同時期又は近接した時期に複数の同一種類の発電設備の申請があること
· 当該複数の申請に係る土地が相互に近接するなど、実質的に一つの場所と認められること
引用元:平成26年度の認定運用を変更します|経済産業省 資源エネルギー庁
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これまで同一の事業地において50kW未満の太陽光発電所を2つ以上設置する(例:49kWと49kW等)は許可されていましたが、今後はこのような分割案件は認定不可となりました。
固定価格買取制度による電気料金の負担増が存在するため、電力会社および一般家庭・企業の負担を増やす可能性のある認定案件は減らしたいという意向のようです。
認定運用の変更による影響
これらの変更により、事前に事業が実施できるかをより具体的に考える必要が出てきます。
これまでは設備認定が確定(=買取価格が確定)してから業者の選定や地権者への説明、ファイナンスの協議にかかる場合がありましたが、それらを事前に行い、確実に事業実施が可能と判断されてから設備認定の申請を提出することになりそうです。
当社では、太陽光発電を中心に再生可能エネルギーの普及と定期的なメンテナンスによるお客様の利益確保に努めています。
業者の選定やファイナンスとの話し合い、経済産業省への設備認定申請や電力会社との協議、運用開始後の法定点検など、ワンストップでの対応が可能です。
ぜひご相談ください。
3:設置工事をしていない場合、認定取り消しになることも
以前から問題となっていた、太陽光発電の売電価格の権利の取得(設備認定権利)だけをして設置を行っていないという問題について、経済産業省が認定取り消しに向けて動き出しています。
産経新聞によると、茂木敏充経済産業相が2月14日の閣議後会見で、太陽光発電の設備認定を受けたにも関わらず発電事業を開始しない事業者について「認定の取り消しも含め、適切に対応することが必要だ」と述べました。
具体的には
- 土地の取得、賃貸等により場所が決定している
- 設備の発注等により設備の仕様が決定している
この2つの要件を平成26年8月31日までにクリアできない案件については認定を取り消すという内容でした。
設備認定後、すみやかに事業を開始しなければならなくなると、太陽光発電パネルの値下がりを待ってから事業開始という手段はとれなくなるため、このような不公平な状況を打開するためには、運転開始までの期限を設けるか「売電価格を認定時ではなく、運転開始時の買い取り価格を適用させる」方法も検討されています。
※平成26年4月1日以降に設備認定された場合の措置は2参照
ただ、発電開始時の固定買取価格を適用することになると、計画立案時の投資シュミレーションが大きくずれる可能性があるため、契約の決断を遅らせてしまうことが考えられます。
そうなった場合、再生可能エネルギーの普及促進を目的とした法律の主旨から外れてしまうため、できるだけ電気利用者に優しく、かつ事業者の健全な発展を後押しする制度が必要になってくると考えられます。