一から学ぶ電力自由化(第四回)参入者たち 前編

今回は、電力自由化を機に参入してきた新電力事業者を、本業の業界別に分けて俯瞰してみようと思います。

1.都市ガス事業者

都市ガス事業は、ガス事業法に基づく許可を受けた一般ガス事業者が供給区域を設定し、その供給区域内の利用者に対し導管によりガスを供給する事業です。都市部を中心に、規模の経済性を活かし、一定規模の効率的な導管網を敷設することにより発達してきました。導管等に係る設備投資コストが大きく、規模の経済性が働くことを主な要因として自然独占性を有しているため、一般ガス事業者にはその供給区域での独占供給を認めるとともに、独占に伴う弊害から利用者を保護するため、料金その他の供給条件について経済産業大臣の認可を受けるなどの規制が課せられています。

都市ガス事業者の数は全国で 200社以上あります。戦後75あった事業者数は、人口増加と都市化に伴い、1955 年頃から急速に増加して100を超え、1976 年に最も多くなり255社となりました。一方、需要家数は、天然ガスの導入により高圧導管でより大規模かつ効率的な供給が行えるようになったこともあり、1980年の約1,700万件から2012年で約2,900万件に増加しています。需要量は同期間で 3.5倍に増加し、特に平成以降は 需要家1件あたりの需要量が大きい工業用分野で伸びています。

都市ガス市場は1995年から段階的に規制緩和が進んでおり、現時点では法人向けなど全体の約60%は自由化されています。しかし、一般家庭向けの契約は地方都市ガス会社が地域独占販売を行っていて競争が無く、問題視されてきました。政府はそうした状況を改革するために、2017年4月から都市ガスの小売り全面自由化を行い、2022年4月から東京ガス・大阪ガス・東邦ガスのガス部門の分離を柱とする改革を行う予定です。

ガス自由化の新規参入者の中で最も強力な事業者は電力会社です。電力会社は火力発電用にLNG基地を保有していて、都市ガスの小売にもLNGを供給することができます。現行の制度ではガス会社と電力会社が二重に導管を運用して非効率になることを防ぐため、政府が電力会社に対してガスの供給を変更・中止する命令を出すことができます。小売全面自由化後も、この「二重導管規制」は継続する方針ですが、変更・中止命令の判断基準を緩和する方向で見直しています。

ガス事業者としては、ガスと電気のセットとした、デュアル・フュエルを2016年度中に実現し、いち早くガス顧客を囲い込み、来るガス自由化に備える。これが小売電気事業参入の最大目的なのです。

大手都市ガス業者は、そのほとんどが2016年4月から電力小売事業者として電力小売を開始しています。自社の火力発電所や工場の自家発余剰電力を使うため発電力に不安はなく、自ら電力小売事業者となる道を選んでいます。

各ガス会社とも、それぞれの地域の電力会社と対抗する関係にあると見られていましたが、地域によって温度差があります。2017年度からのガス自由化に対抗するため、東京ガスや大阪ガスはいち早く参入の意を表明し、営業活動を行ってきました。その結果、2017年12月現在、東京ガスは約100万件、大阪ガスは約30万件と顧客を順調に獲得しています。

2.LPガス事業者

LPガス事業者とは、LPガスの利用者に対し、LPガスボンベを運搬・設置することで、LPガスの供給を行う事業者のことです。導管による都市ガスの供給が困難な地域で利用されるLPガスの市場規模はおよそ7兆円で、家庭用だけも2.4兆円の規模があります。また、大小含めた事業者数はおよそ2万社を超えています。

LPガス業界は、電力と都市ガスに押されて販売量が減少傾向にあります。需要のうち、LPガスの占める割合は1割弱に留まっています。LPガス出荷量の推移を見ても他エネルギーが年々増加傾向にあるのに対して、年々減少を続けています。このような状況にLPガス業界は、業界として大変強い危機感を抱いていました。そのため、電力をLPガスにバンドルさせて価格を下げることで、既存顧客の流出防止を図ることが第一目的です。LPガスの需要数は全国で約2400万世帯で、小売電気事業を新たな収益の柱に据えようと考えるLPガス事業者も多いですね。

現在、大手LPガス事業者の中では、小売事業者として電力供給を行う事業者と電力会社と提携し、その代理店として電気料金プランを販売する事業者に大別されています。各社とも相対契約による他社の発電所から電源を調達し、LPガスとのセット販売を行っていますが、セット販売以外の決定打に欠けてもいます。

3.商社

商社の機能はトレードです。「ミネラルウォーターから通信衛星まで」といわれる幅広い業種の商品を取り扱っています。中でも幅広い商品・サービスを取り扱う総合商社と特定の分野に特化した専門商社に区分されます。総合商社と呼ばれている会社は7社あり、7 社合計では 28 ヵ所に及ぶ国内拠点、239 ヵ所に及ぶ海外拠点があります。

商社は、小売自由化の比較的初期の段階から参入していました。商社は、その業態から、発電に必要な石油や天然ガスなどエネルギー源調達に強みを有し、旧一般電気事業社やガス事業者の燃料調達に実績がありました。近年では、国内外で火力・水力・風力発電所などの発電施設の建設の受注、運営にも関わっています。これらの事業の川下である売電事業も手掛けることにより、マーケットの広がりと利幅の拡大を目指すことが大きな参入動機です。また、日本の電力自由化という新たな市場創出に関わることは、今後アジア各国で同様の電力自由化が起こる際に対応するための良い経験であるとも見ているようですね。

総合商社のほとんどが、電力小売のための子会社を持ち、全面自由化以前より、大口需要家に向け電力小売りを行っています。これまでの電力小売事業に関するノウハウを活かして、家庭向けの電力小売事業の参入には意欲的といえましょう。三菱商事は、自らが筆頭株主となっているローソンと手を組み新たに一般消費者向けの小売電気事業会社「MCリテールエナジー」を設立。「まちエネ」というブランドで販売を開始しています。丸紅も、楽天と手を組み、「楽天トラベル」「楽天市場」に出店している企業・法人向けに小売電気事業を行っています。営業所などの販売網で見ると全国的に拠点を所有した事業を展開していないことや、原則的にはBtoBの企業であることから、一般消費者には馴染みがなく、BtoCへの強みは薄いとも言えます。そのため、一般家庭については住友商事系のサミットエナジーとJ:COMや、三菱商事とローソン等BtoCへの強みを持つ企業とのアライアンスを組み、販路開拓をする手法が目立っています。

4.自治体

自治体またはその関連機関が地元企業と共同で出資し小売電気事業者となり、地域内の公共施設や企業、市民に対し電力供給する団体のことを地域電力といいます。中には、自治体の出資が無く、後援という形をとる場合もあります。

自治体が電力事業に参入する背景として、財政面の収益の改善があげられます。2014年5月、日本創生会議会のレポートにおいて、全国約1700ある地方自治体のうち、約半数にあたる896の市町村が消滅する可能性があることが指摘されました。人口減少と地域経済が縮小していく中、自治体の収益を改善するため、これまで外から調達していた電力を地域内で創出することで地域の資金の流出を食い止め、自治体が電力を販売することで安定的な収益の柱にすることが模索されています。

また、販売の収益だけでなく、発電事業者が地域内に設立されることで、雇用の創出や法人税の収益など、地域の財政改善に一定の効果を見込むこともできます。また、CO2の削減や未利用エネルギーの促進、エネルギーマネジメントの効率化などの環境面の課題解決策として、スマートコミュニティへの取り組みの一手としても有力視されています。特に近年では、市町村合併により複数の自治体が統合されたが、職員を削減することができずにかえって経常収支比率を高めてしまっている自治体が多いと指摘されています。そこに、税収を大きくすることのできる自治体新電力の設立は大層魅力的に映るそうで、2017年度以降も各地で設立が進んでいます。

2017年4月末の時点で、さまざまな地方自治体が小売電気事業に参入しています。例えば、群馬県吾妻郡中之条町が出資する「中之条パワー電力」、静岡県浜松市が出資する「浜松新電力」、鳥取県鳥取市が出資する「とっとり市民電力」、福岡県北九州市が出資する「北九州パワー」、福岡県みやま市が出資する「みやまスマートエネルギー」、大阪府泉佐野市が出資する「泉佐野電力」などが代表的な自治体新電力でしょう。しかし、内外に克服すべき課題が山積みであり、慎重な対応が求められる状況にあります。まず内側の課題としては、首長の変更による事業の停滞や、議会の決議遅延により機会損失、営業力/運営力の不安などが挙げられます。経営不振に陥れば、事業の継続を議会で否決される恐れすらあるでしょう。

外側の課題には、地方自治体の施設は魅力的な高圧需要家であるため、独立系や総合商社系の新電力事業者が営業活動の一環として地方自治体との提携を求めてくるケースが多いことが挙げられます。しかし、この提携話に乗ってしまっては、他社の小売電気事業を助けるだけで、住民への貢献度は極めて小さくなってしまいます。これでは「自治体の経済的な自立」や「電気の地産地消」といった掛け声は看板倒れに終わってしまう危険性が高いと言えるでしょう。住民の電気料金を地方自治体の外に持って行かれるだけで有効に活用できないことになります。

このように、様々なプレーヤーが参入してきています。よく、「なぜあの会社が電力を販売しているの?」という疑問を持つことがありますが、そこには十人十色の参入動機があるのです。