経済産業省は、2014年4月に策定されたエネルギー基本計画の方針に基づき、2015年7月16日に「長期エネルギー需給見通し」を発表しています。2030年のオリンピック開催までにエネルギーミックスを完成させ、「電源の不安定な国」という印象を脱しようとしています。8月末に公表された概算要求も含めて、今後のエネルギー政策を分析します。
エネルギー基本計画の方針は、3E+S。安全性(Safety)を前提としてエネルギーの安定供給(Energy Security)を第一とし、経済効率性の向上(Economic Efficiency)による低コストでのエネルギー供給を実現し、同時に、環境への適合(Environment)を図る。これが今後のエネルギー政策の基本的視点です。
以下は、「長期エネルギー需給見通し」からの引用です。
(1)安全性(Safety)
福島第一原子力発電所事故により、原子力への信頼が低下している。また、石油・ガス等の他の燃料の供給設備や風力発電設備等についても自然災害等への耐性の意識が高まっている。
以上を踏まえ、原子力については、世界最高水準の規制基準に加え、自主的安全性の向上、安全性確保に必要な技術・人材の維持・発展を図る。また、石油、ガス等の設備についても安全性の向上に向けて取り組んでいく。(2)安定供給(Energy Security)
平時のみならず、危機時にあっても安定供給が確保される多層化・多様化した需給構造を実現することは重要な課題である。
その中で、エネルギー自給率の改善は長年に渡る我が国のエネルギー政策の大目標である。他方で、東日本大震災以降、我が国のエネルギー自給率は、原子力発電所の停止に伴い、僅か6%程度まで落ち込み、OECD34カ国中2番目に低く、非資源産出国のスペイン(26.7%)、イタリア(20.1%)、韓国(17.5%)と比較しても極端に低い水準となっている。
以上を踏まえ、エネルギー調達先国の多角化や国産資源の開発を進め、調達リスクを低減しつつ、自給率については、東日本大震災以前を更に上回る水準(おおむね25%程度)まで改善することを目指す。(3)経済効率性(Economic Efficiency)
東日本大震災以降、電気料金は、家庭用、産業用共に大きく上昇しており、各地の中小企業・小規模事業者を始めとした産業界から悲鳴が上がっている状況において、雇用や国民生活を守るためにも、電気料金の抑制は喫緊の課題であると同時に中長期的にも安定的に抑制していく必要がある。
また、経済の好循環が確実に動き始めている状況下において、産業競争力を確保し、日本経済を本格的な成長軌道に乗せていくことが重要であり、経済成長を支えるエネルギー需給構造を構築する必要がある。
政府としてもエネルギー調達価格を可能な限り低減する取組やエネルギーシステム改革を進めているが、一方で、東日本大震災前に比べて原発依存度を低減し、再生可能エネルギーの導入を促進することとなっており、このことが電力コストの大きな上昇圧力となる。
以上を踏まえ、電力コストを現状よりも引き下げることを目指す。(4)環境適合(Environment)
東日本大震災以降、原子力発電所の停止による火力発電の焚き増し等により、温室効果ガス排出量の増加が継続しており、地球温暖化対策に積極的に取り組む必要が一層高まっている。
そのような中、本年12月にCOP21を控え、我が国も先進国の一員として、野心的な目標を示し、国際的な地球温暖化対策をリードしていくことが求められている。
以上を踏まえ、欧米に遜色ない温室効果ガス削減目標を掲げ世界をリードすることに資する長期エネルギー需給見通しを示すことを目指す。
今回のエネルギー需給見通しにおけるポイントは3つです。
1.省エネに力を入れている
先日発表された概算要求では、「エネルギー対策特別会計」として15年度当初予算比22.5%増の9,757億円、省エネ関連では倍増となる2,429億円を投入し、企業や家庭の省エネ対策を推進するための補助金を大幅に拡充する見通しです。
その背景には、2030年に向けて、2013年比でマイナス13%もの省エネを実施する計画があります。[図1][図2]
[図1]エネルギー全体の削減目標。出典:「長期エネルギー需給見通し」
[図2]電力の削減目標はマイナス17%にも。出典:「長期エネルギー需給見通し」
2.再エネの中でも、ベース電源になりうる発電方式に力を入れている
FIT(固定価格買取制度)では新規導入の9割以上を太陽光発電が占めました。今後は自然条件(太陽光、風力)に左右されず、安定的な運用が可能である地熱・水力・バイオマス発電を広く普及されることによって、原子力発電の比率を抑えることを目指します。この3つの発電方式は民間の単独事業では実施が難しいため、官民の連携が非常に重要になります。
3.電気料金の低減を目指す
省エネはもちろんですが、FITによって生まれた再生可能エネルギー発電促進賦課金で国民の電気料金負担は増加しています。電力自由化によって新電力に契約変更する法人は増えつつありますが、それでも普及率はまだ約5%程度。先日は安倍首相が総務相に対し携帯電話の通信料金の引き下げを検討するようにと指示しましたが、それも家計の負担増を懸念してのこと。各部門の料金の適正化は今後も続くと思われます。
以上、スターメンテナンスサポートが考える今回のエネルギー政策のポイントを簡単にご紹介しました。省エネ・創エネ問わず、エネルギー運用に関わるご相談はスターメンテナンスサポートまで!